2019年 07月 24日
電車のリズム
藍沼駅の改札を抜けた
その先の丘に、
県立の高校が建っている。
通学のために
学生さんの多くが
この駅を利用してくれている。
その中のひとり、
ひょうひょうと風をきって
大股で歩く青年。
乗客の中に紛れてしまうと
僅な瞬間に見失ってしまう。
出会いとは
奇跡的なものだ。
今日も、
いつもと同じように
ドラムスティックを差し込んだ
リュックを背負い、
イヤフォンから流れる音楽のリズムを
指先と手のひらが吸い上げたように
太ももに打ちつけながら、
改札を抜けて行った。
以前、青年に
こう話しかけたことがあった。
「列車が走る音のリズムを楽譜にしたら
どんな風になるんだい?」
青年は、リュックから五線紙を出してきて
小さく口ずさみ、
頭をリズムにあわせて揺らしながら
ペンをは走らせた。
10分もしないうちに
五線紙には
音符が書かれていた。
太ももをドラムに見立てて
演奏してくれた。
「こんな感じで合ってますか?
ここから先は、accelerando。
だんだん速くすれば
列車が加速していくんです。
と言っても、
僕が産まれた町を走っていた
列車のイメージですけど」
彼は旭川の産まれだったな。
そうだ、
列車の刻むリズムは、
場所も
速さも
乗り越えて
普遍的なんだと、
言っているように思えた...
それから
何ヵ月が経っただろうか。
彼が、改札の横の窓口に
顔を見せてくれた。
あす、ドイツに音楽留学をするために
日本を離れるのだと言う。
今日も、ドラムスティックが
リュックに差し込んだままだった。
「元気でな。
ごはんは、しっかり
食べるんだぞ」
餞にもなり得ない
日常と変わらない言葉しか
かけられなかった。
彼は、
日常と変わらない
ひょうひょうと風を切った大股な歩みで、
日常と変わらずに
改札をくぐって、
桜色と藍色のラインが引かれた
車両に乗り込んでいった。
そこから先は
accelerando
夢に向かって
加速する。
ドイツの列車が走るリズムも、
あの五線紙の音符のような
リズムなのだろうか...
by aiotsunaide
| 2019-07-24 23:41
|
Comments(0)

