2019年 09月 05日
運転士と老夫婦
札幌の駅で
今日の宿泊先を尋ねる老夫婦がいた。
季節外れの暑い日だった。
声をかけられた運転士は
たった今、業務を終えて
職務室に戻る途中だった。
富良野からの上りの特急に
乗務していた。
年老いてはいるが
威厳を持った車両と対話しながらの、
2時間程の乗務は
身も心も
くたくたになってしまう。
帽子の下は汗まみれで
ぐちゃぐちゃになった髪の毛。
制服のシャツも
当の昔によれよれになって、
制服のズボンも
折り目が薄くなってしまっていた。
やっと一息つけるかな、と思いながら
フラフラと歩いていた駅の構内で
老夫婦に呼び止められた。
わからない場所ではなかった。
でも、思っている程
分かりやすく伝えられていない
気がした。
観光地図を指差した。
目印を示した。
でも、遠回りだったかもしれない。
地下道を案内すればよかったかな。
でも、案内板が少ないに違いない。
車両と対話しながら
運行することは
それほど難しいと感じたことは
あまりなかった。
こんな案内で
良かったんだろうか・・
別れの挨拶をして
足早にその場を離れた。
何か気になって
職務室の入り口の前で
後ろを振り返った。
老夫婦はまだ同じ場所にいて
こちらを見送っているように立っていた。
そして、こっちに向かって
深々と、お辞儀をする姿があった。
「よき旅を」
と、心の中で
小さく呟いた。
何処からともなく
初秋を思わせる
冷たい風が、
一本の細い塊になって
運転士の頬を
通り過ぎていった。
by aiotsunaide
| 2019-09-05 23:35
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