人気ブログランキング | 話題のタグを見る

渡り線

今日の昼食は15時を回ってしまった。
雑事、とまではいかないが
細々とした作業に時間が取られてしまった。
やれやれ.....と思いながらスマホに目をやると
何かしらの着信があったことを知らせるランプが
点滅していた。
「まずは手洗いか」
そう思って水場に向かい、
戻って椅子に腰掛けると同時に
スマホを開いた。
メールの送り主は
もう何年も連絡をとっていなかった旧友からだった。
近況が告げられてあり、最後に
「遊びに来てみないか」との誘いがあった。

野蒜か…

確か、次の日曜は非番のはずだ。
迷わず、待ち合わせの時間を相談しようと
返信を送った。


早速、時刻表を広げる。
アプリの経路検索も便利だが
最終的に時刻表で確認するのが私の流儀だ。
総合的に見渡せる時刻表は、どうしても手放せない。

仙石東北ラインが思い浮かんだ。
仙石線を使うこともできたが、
最速であり
山も海も、両方の景色が楽しめる路線、
そして、ハイブリッド車両(HB-E210)に乗ってみたくなった。
仙石東北ラインは、
海側を走る仙石線と山側を走る東北本線とが
ある地点まで平行して走っていることを利用して、
東北本線車両が仙石線に乗り入れて
仙台駅から石巻駅までの47.2kmを約1時間て走り抜いている。
軌道が最も接近する“塩釜駅”と“高城町駅”の間に
300m程の連絡線を設けて
“渡り線”と呼ばれている分岐器を使い
連絡線を動かして軌道の移動を行っている。

11時に野蒜駅前で待ち合わせることになった。
乗車してみると
東北本線から仙石線への乗り入れは
思っていたよりゆったりとした速度で進入し
慎重だった。
本来進んでゆくべき軌道から外れて
もうひとつの方向へと向きを変えてゆき、
その後に続く何個かのトンネルを通過する
ミステリアスな感覚は
この路線の特色のひとつかもしれない。

野蒜駅前は
東日本大震災以降、新しく整備されて
新しい住宅地も広がっていた。
迎えに来てくれた旧友と
数年ぶりの再会を果たし、
昼食は、早速新米をご馳走になった。
ご近所に住むご夫婦のお嬢さんも遊びに来てくれた。
人見知りをしない、明るいお子さんで
巨大迷路のような遊具を一緒にやろうと
誘われてしまった。
「宝探しの冒険に行くので
共に探そう!」
ということだった。


旧友はかつての同僚で、
都市部での暮らしに愛想がつきて
随分前に、海沿いの静かで素朴なこの町に
拠点を移した。
野菜作りや稲作を
今は趣味でやっていて、
田んぼに関しては
近所の方の手伝いをしているらしい。
一緒に仕事をしていた頃は
仕事ばかりしていて、
趣味とか余暇活動といったものから
一番離れた場所に居たように思う。
酒を呑みながらあれこれ話しては
切磋琢磨しあう
そんな同志だった。
唯一、趣味らしいこととして思い出されるのは、
共に夜勤を終えた後に淹れてくれたコーヒーが
とても旨かったこと。
ラベルに‘女川’とか書いてあったかな。
美食家だったんだ、と今さらながら振り返る…

しばらく会っていなかった。
数年前、突然届いたメールで
近況を知ったが、
何故か、会おうとは当時は思わなかった。
今回、「新米だ」「里芋だ」「栗だ」と
美味しい食材を盾にしたメールが届いた時、
デジタルな文字から
あの時のような熱量が感じられて
旧友が住む町を見たくなった。
「食いに行くよ」と返信するのに
さほど時間はいらなかった。
いつもは、平行している旧友と私の軌道(レール)だが
何年かぶりに届いた
素顔を覗かせるメールに
私の中にある“渡り線”のようなものが作動して
向こう側の軌道に寄り添おうと思えたような気がする。


それにしても、
今日の宝探しゲームでは随分歩かされてしまった。
日頃の運動不足がたたって
もうすでに、足が鉛のように重たく感じる。
帰りの車内が空いていて助かった。
列車はそろそろ
渡り線によって動かされた連絡線上を通過するようだ。
軽く警笛を鳴らしてから、徐行運転で列車が進みはじめ、
女性の車掌さんが耳心地のよい口調で、
塩釜駅から終点の仙台駅まで
停車せずに乗り入れることを告げている。
ハイブリッド車両のエンジン音が高鳴りしたが
座席の揺れは少なく、
ストレスなく加速してゆく。
急に眠気がやってきて瞼を閉じた。
外はもう暗く夜になっていた。
日没が加速度を増して早まっていることに
秋が、冬がもうすぐやってくることを
まどろみの中でぼんやりと思い浮かべていた。








※HB-E210
渡り線_e0416525_13480744.jpg


※新型感染症への対応もしっかりと
渡り線_e0416525_13454936.jpg





名前
URL
削除用パスワード

※このブログはコメント承認制を適用しています。ブログの持ち主が承認するまでコメントは表示されません。

by aiotsunaide | 2020-09-27 14:00 | Comments(0)

藍と共に観る路線風景


by aiotsunaide
カレンダー
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28