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日本晴れの空

“日本晴れ”とはこういう空のことを言うのだろう。
地図に描かれている山並が
実際に全部見渡せそうな
遮るものが何もない空。
こんな空に出会える日は
1年の内で何度あるだろうか…。


日本晴れの空_e0416525_22314295.jpg

撮影:2023/2/27 JR仙山線(葛岡駅付近)と大東岳







「じゃ、明日、登山口駅で待ってますから。

よろしくおねがいします」



北山はそう言って電話を切った。

食品加工装置の技術者である北山は、

お客さんの葛岡さんと、明日、大東岳登山に行くことになってしまった。

葛岡さんは山菜取りが好きな

気さくで素朴な人だった。

初めは無骨な表情がどうも苦手で、仕事の話し以外はあまり会話ができなかった。

また、いつでも冷静で正確に物事を捉える葛岡さんに対して、

どこか気の抜けた、おっちょこちょいな性格の北山は

一種、近づきがたく、どちらかと言うと苦手なタイプだった。



ある日、図面の最終確認で葛岡さんのところを訪れた。

時間は約束してあったのに、珍しく葛岡さんは不在だった。

いつも、自分より早く約束の場所に来ていて

私を待っていてくれていた。

そんな葛岡さんが今日は来ていない。

「少し遅れるから待っていてほしい」

そう伝言があったと伺ったが、理由は知らされなかった。

20分程待って、葛岡さんが小走りでやってきた。

「いや~、待たせてしまって申し訳ない。

孫がさぁ、俺と一緒に学校に行くってきかなくってさ、参っちゃったよ。」

仕事以外の話しをしたのは、この時が初めてだった。

今年1年生になったばかりのお孫さんが引っ込み思案な性格で、

おじいちゃん子なので時々甘えて、「一緒に学校に行こう」と言ってくるらしかった。

そして、待たせたお詫びにとアケビの新芽をどっさり持って来てくれた。

アケビの芽が食べられるとは初耳だったが、

家に帰って教わった通りに湯がいて食べてみると

その食感といいほろ苦さといい、鼻に抜ける山菜の香と言い

それは今までに味わったことがない位、絶品だった。



それからだ。

学生の時分から山登りが好きで、山にばかり登っていた話しを

仕事の合間にするようになった。

葛岡さんもまた、低山が多いようだったが登山好きで

山菜取りも含めて、山好きであることに違いはなかった。



「今度、大東岳の湧き水を汲みに行きませんか?

夏もいいですけど、冬は格別にいいもんです。

僅かにですけどここ、凍らないんですよ、すごいでしょ。

少し、雪道を登りますけど、北山さんの経験からしたら

朝飯前ですよ、あはは。」



北山はそう誘われたが、即答できなかった。

山に辛い経験があって、それを境に山には立ち入っていなかった。

10年程前に落石事故に合い、九死に一生を得ていた。

無茶なことをしていたのだと思う。

それ以来、自分に自信が持てなくなっていた。

ただ、葛岡さんの慎重さと裏表のない性格が

背中を押しているように思えて、葛岡さんと一緒なら

山に入れるような気持ちにもなれた。

正直、迷いはあったが、断る理由も見つからなかった。





北山は列車に揺られていた。

登山口駅まではあと30分も乗れば到着する。

今でもまだ怖い気がする。

列車の窓の向こうには、雲一つない青空がどこまでも続いていた。

「こんな空に出会えるのは、そう何回もあるわけじゃないよな」

きっとうまくできそうだと、そう思えていた。


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by aiotsunaide | 2023-03-04 23:57 | Comments(0)

藍と共に観る路線風景


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